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【ネタバレ考察】韓国映画『パラサイト 半地下の家族』のメタファーと結末

パラサイト半地下の家族

カンヌ国際映画祭で韓国映画初のパルムドール賞に輝いた『パラサイト 半地下の家族』を見ました。韓国では1000万人の動員を達成し、アメリカでは『ラ・ラ・ランド』以来の興行収入を記録するなど世界的大ヒットを記録しているようです。

今回は、本映画内で重要な意味をもつキーワードおよび映画のラストシーンについて考察しました。(※ネタバレ含みます。)

本映画の監督ポン・ジュノは一貫して社会を風刺する映画を作っており、本映画主演のソン・ガンホとは過去にも様々な映画でタッグを組んでいます。

監督ポン・ジュノ×主演ソン・ガンホ

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韓国映画『パラサイト 半地下の家族』貧富差のメタファー(暗喩)を考察

この映画は富裕層と貧困層の対比を描いておりますが、ストーリーの中にもそれを暗喩している表現・描写が沢山あります。

階段

この映画において、階段は最も象徴的に描かれています。

この映画には数々の長い階段が出てききており、物理的な上下が貧富差を表しているのです。

例えば、貧乏一家が住む家は階段を降りた半地下にあります。

また、高台にあるパク一家の豪邸にたどり着くまでにはとてつもなく長い階段を登る必要があり、一方リビングからつながる地下室には長く不気味な階段を降りていきます。

この長すぎる階段(誇張された上下関係)こそが、登場人物の貧富差を表していると言えます。

ギウやギジョンが家庭教師の面接を受けるために坂や階段をはるばる登っていくシーンや、大雨の日になんとかパク邸を脱出した貧困家族が雨水の流れる坂を下っていくシーンは、まさにその高低差(=貧富差)を象徴していると言えます。

この大雨に対する認識の差は貧富差を大きく表しています。

大洪水により、半地下にあるキテク一家の家は壊滅します。彼らは避難所での生活を余儀なくされ、支援物資の服を来てなんとか再びパク一家に出勤します。一方、パク一家は大雨の被害など気にもとめず、むしろ大気中のPM2.5が少ないと安堵する始末です。

大雨が降った日、高いところから低いところへ流れる土砂水は、落ちていくしかない貧困層のしがない運命を揶揄しているとも言えます。

ラストシーンで、キテクは自ら地下室へ入っていくことを選びます。元々半地下に住んでいたキテクが最終的に完全なる地下へ入っていくのは、貧困層はこの土砂水のように下っていくことしかできないことを象徴しています。

キテクの、「自分のいるべき場所がどこかすぐにわかった。」というセリフがそれを表しています。

臭い

臭いもこの映画では貧困を象徴する大きな役割を果たします。

本作では臭いを嗅ぐという行為が何度も行われます。

例えば、最初にパクの息子ダソンが、ギウ達家族の臭いが一緒だと言い出します。また、車の中でキテクと一緒に過ごすパクが、キテクのことを「切り干し大根のような臭いがする」と言い表しています。

パク達一家が気づいた臭い、それは半地下で過ごす内についたキテク一家の貧困層の臭いです。

富裕層であるパク一家は普段触れることのない貧困層の臭いを嗅ぎ、違和感を感じ始めるのです。

どんなに演技し着飾っても、体に染み付いた貧困層の臭いを隠すことはできません。

計画と無計画

もう一つ富裕層と貧困層を分けるものがあります。それは「計画」と「無計画」です。

計画とは本来富裕層(=上流階級)の特権であり、社会のシステムは全て計画的に動いています。一方、キテクら貧乏人は計画など立てずに自然体で生活しています。

キテクは「無計画こそが最高の計画だ。」と言います。なぜなら、どの計画にも必ず穴が存在するため、計画など立てずに無計画、すなわち本能的に動くことこそが成功の秘訣なのだと。

しかし今回生まれて初めて、息子のギウがパク一家で働くための計画を立てます。

「息子よ、お前には計画があるのか。」

キテクのこの名言は、今まで無計画に和気あいあいと楽しく暮らしていた家族が、計画を立てることによって自分たちの運命に争い、崩壊してくことを予期していた表現と言えます。

(ネタバレ)韓国映画『パラサイト 半地下の家族』結末の考察

前半まではキテク一家がパク一家に寄生していくコメディー映画でしたが、大雨の日に元家政婦のムンクァンジュがやって来ることで映画の流れは一変します。

最終的にはスリラーな展開となり、殺戮が繰り返されることになります。

以下では、ラストシーンにおける登場人物の心理的な動き、および結末について考察しました。

なぜ地下の住人グンセはキム一家を殺害しようと思ったのか

地下の住人グンセはキテク一家に縛り上げられ、妻で元家政婦のムンクァンジュは、キテクの妻チョンソクに蹴られた際に階段を転げ落ちて死亡しました。

妻を殺され、今までの地下生活を奪われた復讐心からキテク一家(特にチョンソク)に対する殺意がありました。

またそれだけでなく、グンセは「リスペークト!」などと叫び、自分に地下空間を与えてくれているパクに対して狂信的な感情を抱いていました。

グンセはパクに対する信仰心のあまり、パクの周りにいる人物全員に敵意を持っていました。

その敵意はキテク一家のみならず、パクの妻ヨンキョに対しても同様です。

長らく地上に出ておらず陽の光を浴びていないグンセは、重度のうつ病状態にあったと考えられます。地下から這い上がったグンセは、自らの復讐心と信仰心のもと、殺戮を実行しました。

なぜキテクはパクを刺し殺したのか

地下の住人グンセによりキテクの娘ギジョンは刺され、生死を彷徨っていました。一方、富裕層連中はそれを気にも留めず逃げ惑っていました。パクは「車のキーをよこせ」とキテクに言い、グンセから漂う異臭にしかめ面をしていました。

人が刺されて生死を彷徨っているというのに、この男は貧乏人の臭いにしかめ面をしている。

キテクは富裕層の非情さに対し、衝動的に怒りを感じました。

キテクはパクから「一線を超えてこないからいい」と評価を受けており、常に貧困層である自分と富裕層であるパクの境界をわきまえていました。

しかしこの瞬間だけは、どこまでも利己的な富裕層(特にパク)に対して怒りが込み上げ、今まで守ってきた一線を超えてパクを刺し殺してしまいました。

なぜキテクは地下へ行くことを決意したのか

パクを刺し殺したのち、冷静になったキテクは一度は逃げようと試みます。

しかし「このまま逃げても捕まるだけだ」という恐怖感と、「自分は地上にいるべき人間じゃない」というある種の自己嫌悪感に襲われ、そのままパク家の地下に潜っていくことを決意します。

「自分の行くべき場所がどこか、すぐにわかった。」

坂を流れる土砂水のごとく、人間も上から下へと流れ落ちていくだけなのです。

半地下に住んでいたキテクは、人を殺したことで半地下のさらに下である地下こそが、自分にとって一番ふさわしい場所だと考えたのです。

映画の題名「パラサイト(=寄生虫)」とはいったい誰のことか?

「半地下の家族」という映画の副題や、パク一家とキテク一家が対照的に描かれているポスターからも、最初はキテク一家がパク一家へのパラサイト(=寄生虫)だと考える人が多いと思います。

しかし、キテク一家に一定の嘘はあるものの、全員正規の労働の対価としてお金を受け取っています。

本当の意味での寄生虫は、地下にこっそり住んでいたグンセであり、パク一家にとっての見えない脅威だったのです。

(最後に)韓国映画『パラサイト半地下の家族』を見た方にオススメ

いかがでしたでしょうか?

様々なメタファーを用いながら貧富差を象徴的に描き出し、コメディーからスリラーへの凄まじい変化を遂げる映画『パラサイト半地下の家族』は2019年カンヌ国際映画祭での最高賞(パルム・ドール賞)を受賞しました。

ちなみに、2018年にカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した作品は日本の『万引き家族』でした。こちらも日本の貧困層を様々な手法で描いており、見応えのある作品となっております。

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